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虹色の星座 磯崎京子さん tsuna28 2023s

虹色の星座 小さな光を繋ぐ未来へ

カカオフレンズを訪ねる 連載 第8

元大学教員 
磯崎京子さん

取材・文・写真 簑田理香


広大な宇宙に散らばる小さい点のような星でも、線で繋いで結んでいくことで夜空に大きな星座が見えてきます。沖縄カカオプロジェクトは、インド、ネパール、沖縄、東北の生産者さんたちだけではなく、全国各地のカカオフレンズの皆さんお一人おひとりの思いや願いが結ばれて、未来の姿が描かれてゆきます。フレンズの皆さんは、どんな思いで、リサチョコレートを手にしてくださっているのでしょうか。カカオフレンズのお話を伺う連載、第8回をお届けします。


 今回ご紹介するのは、東京都西部の街にお住まいの磯崎京子さん。お父様の形見の着物を仕立て直したというパンツスーツの胸元には、沖縄の青い海に生きるジンベイザメが仲良く並んでいます。


新緑のネパリ・バザーロの事務所の庭で。撮影の後、近くの森からリスが遊びに来てくれました。

異なることを認め合い、世の中を面白く!

 磯崎さんは大阪生まれの東京育ち。戦後の復興、高度成長期の右肩上がりの時代とともに、前向きな姿勢と努力で人生を歩んできました。大学で英文学を学び、1974年、エールフランス航空パリ本社勤務の日本人国際線客室乗務員の一期生の募集に応募。高倍率の難関を突破して世界を飛び回る日々を過ごしました。仕事は夢のような好奇心を満たしてくれると同時に、各国で白人VS.有色人種の意識を感じることもあり、世界の現実を知る良い機会となったそうです。

 3年勤めて退職し帰国しますが、当時はまだ女性が仕事を得て力を伸ばしていくのは、容易ではない時代。磯崎さんは歩む道を模索しながらまずはイギリスの大学で英語教授法の認定証を取得し、次に日本にあるアメリカの大学院で英語教育の修士号を取得し、教育者、研究者としてのキャリアをスタートさせました。

 次に訪れた転機は、2001年9月、アメリカでの同時多発テロでした。三千人近い方々が命を奪われた大惨事。有色人種である過激派集団の白人社会に対する激しい怒りや憎悪を感じた磯崎さんは、英語教育の場にいる者として、異文化の理解と途上国とのコミュニケーションを学ぶことの重要性を痛感し、都内の大学院で異文化コミュニケーションを専攻し修士号を取得します。
「日本のフェアトレード団体は、途上国の人々とどのようにコミュニケーションをとっているのだろうか」。それが、入学時に立てた研究テーマで、その調査の対象団体として巡り合ったのがネパリ・バザーロです。「ネパリ・バザーロはネパールの人々の生活や感情に丁寧に接し、とても誠実で感銘を受けています。もう20年もご一緒しているのですよ」

 退職後の今が一番充実しているとおっしゃる磯崎さん。人生を楽しみながらチャレンジし続けるエネルギーの源は? 
「父の影響が大きいかもしれませんね」

 お父様は、第二次世界大戦でビルマに出兵し、二百人の部隊で生き残ったのは三人という熾烈な状況を生き延び、敗戦の翌年に帰国しました。あまり戦争の話はしたがらなかったそうでうすが、記憶に残っていることがいくつかあります。「大河を渡るときに象の尻尾を掴んで渡り一命をとりとめた」「鉄砲の弾は近くに落ちるとバン!ではなくピシ!という音がするんだよ」「仲間と二人で偵察に出され、帰ってこないのでもう死んだと思われていたとき、やっと二人が帰ってきたので皆が大喜びしてくれた」「やっと復員してきたら、おふくろはすでに亡くなっていて愕然とした。おふくろはビルマにいる自分の身代わりになって死んでくれたのだと確信した」、夜中に泣いていた父の背中。そして「こんな馬鹿馬鹿しくて愚かな戦争で絶対に死にたくない!と思っていた」と、きっぱりと語っていたこと。

 「父は、戦後は平和を喜び、自分の感性の正しさを信じて人生の楽しみを大切に生きたと思います。趣味は8ミリカメラの撮影で、カメラ持参でビルマへ慰霊の旅にも行きました。父はその時に撮影した映像を『土と仏心というタイトルをつけて作品にしたのですが、今は所在不明です。タイトルには、彼の地で土と仏に救われたという父の気持ちが表れていると思うのです。父の死後、私もビルマへ慰霊の旅をしました。日本兵の霊は草むらのあちこちに潜んでいるように思えました。もっと父の話を聞いておけばよかったとつくづく思うのですが、かなわぬことなので、お墓参りをして『お父さん、戦地でよく生き延びましたね。偉かったですね』と話しかけています」

 磯崎さんからは、お父様の話を通した非戦のメッセージ、そして「異なることを理解し合う」ことの大切さも教えていただきました。
「異文化や自分と違う意見を持つ人のことを理解することから一歩進めて、違うことを楽しむという感覚も大切ですよね。自分と違う意見や個性の磨き合いを楽しんで、みんなが輝きたいですね」

 

取材・文・写真 簑田理香
栃木県益子町在住。地域編集室簑田理香事務所 主宰。