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若者たちの座談会 tsuna29 2023a

自分らしく働く、自分らしく生きる

若者たちの活躍を応援することは、ネパリが力を入れている大切な取組みのひとつです。奇しくも同じ年齢の若者3人が、野田村(岩手)・久米島(沖縄)・横浜(神奈川)で、夢をかけて仕事に取り組み、刺激し合い、支え合い、これからも共に歩んでいこうとしています。それぞれの仕事にかける思いを語っていただきました。

座談会 2022年6月12日

山口光司さん:出身は栃木県。大学卒業後、野田村へ。地域おこし協力隊としての3年を終えた後、畑を借りて2021年にLu.cultiverを開設し山ぶどう農家に。

仲地リナさん:久米島の菊農家の親元で2018年から就農。両親の体調不良をきっかけに無農薬・減農薬を目指す。

簑田萌さん:大学で国際協力を学び、卒業後青年海外協力隊赴任先のパラグアイでバドミントンを指導。帰国後2019年秋からネパリ・バザーロで働き始める。

聞き手)土屋春代さん:ネパリ・バザーロ創立

土屋春代(以下:春代):たまたま1994年に生まれた仲間が集まりました。日本は農家の高齢化が進むものの新規就農は少なく農業人口が減る一方です。特に若者が増えないということは、職業としての魅力が伝わっていないことや、農業に入りにくい見えない障壁があるはず。あとに続く若者のためにもおおいに語ってください。

今の仕事に至るまで

山口光司(以下:光司):大学のボランティアサークルで被災地へ行き、ネパリのツアーにも参加して、東北と縁ができました。東北では1次産業、2次産業の人手が不足していますが、先進的な取り組みもしていて、卒業しても東北との繋がりを続けたいと思い、仕事を探しました。野田村で農業の担い手を募集しているとネパリから教えていただき、すぐに見に行きました。広大な畑で作業する当時80歳だった岩山さんから「農業は大変だけどやってみる価値がすごくある」と聞いて、ここなら働いてみたいと思いました。自分で作物を作ることに携わり、担い手としての貢献ができてありがたいと思っています。

仲地リナ(以下:リナ):小さい頃から両親の手伝いをし、農業はきつくていやだと思った時期もあり、他の仕事も経験しましたが、自分にあっているのはやっぱり農業なのかなと。2年が経つ頃、責任を持たせてくれと両親に話し、栽培計画、経費計画を体験し、あらためて農業の難しさ、楽しさを知りました。両親が突然同時に倒れた時は本当に大変な思いをしました。自分の体を酷使してまで農薬を使わないといけないのか、続けていたら自分や皆の体がもたない、それではいけないと思い、減農薬をやりたいと両親に話し、スタートしました。親類から紹介された春代さんに、初めて栽培した減農薬のバタフライピーを見てもらって、ネパリの考え方や重視しているものとの共通点を感じました。研修でも岩手の農家さんを回り、ネパリの強い思いを知りました。

簑田萌(以下:萌):青年海外協力隊から帰国後、ネパリを訪ねて百合香さんや春代さん、完二さんと話し、これまで会った大人からは感じたことのなかった、楽しく真剣に働く人がいるという衝撃がありました。「人のために動くと自分が自由になれる」という春代さんと完二さんの言葉が腑に落ちました。共にネパリで働いたら社会が変えられる、いろんな人に繋がり、そこで自分はがむしゃらにやるだけだ、芯に「人」があるといかようにも動けるし、動きたくなると感じました。

山口光司さんの沖縄訪問

春代:3月に山口さんを沖縄島や久米島にお連れしました。

光司:農業と平和学習の両軸で沢山の人を紹介していただきました。平和学習としては、沖縄は恵まれた土地で素晴らしい自然がありますが、その恩恵が住んでいる人よりも本土に搾取されていることが多い。人の不幸を土台にしている社会に、しんどい部分を感じました。農業研修では、自然栽培、風土に合わせた品種の選定、地温を上げる工夫、微生物が活発な土壌作りなどを学びました。畑の観察、データの記録の必要性を感じました。どの生産者も植物への向き合い方が謙虚で、人が植物を支配するのではなく、力を信じて、話しかけ、お世話させてもらっていると感じました。

春代:ご指導いただいた沖縄やんばるのカカオ栽培者てつさんはあれほど自然を大事に農業しているのに、農業がそもそも自然破壊だと話されたのが衝撃的でした。リナさんは久米島で山口さんを迎えてどんな印象でしたか?

リナ:物静かな山口さんから減農薬にしたいという熱い思いを聞いて似ていると感じ、しかも同世代。情報共有して、お互いに高め合いながら農業ができると、この縁を嬉しく感じました。

光司:「はじける農業」というコンセプトのリナさんは突き抜けていて、こういう人が今までの農業の考え方を変えていくと思いました。

リナさんの岩手研修

春代:6月に今度はリナさんを岩手にお連れし、山口さんの素晴らしいコーディネートで研修をしました。

リナ:山口さんの圃場は広くて、そこを一人で管理してるんだ、どう仕事を回しているのかとびっくりしました。ジュースまで自分で作る6次産業化も凄い。

光司:リナさんは一つ一つに学びを得る感性が研ぎ澄まされていました。自分もとことん学びを吸収していく姿勢をつけて、見えないものを見れるように感性を鍛えなければいけないと感じました。

リナ:陸前高田にあるネパリの工房「椿のみち」にも行って、スタッフの意識の持ち方、追究心の凄さを感じました。スタッフそれぞれが意見を持ち、それを互いに受け入れながら切磋琢磨して成長していました。久米島ではまずはそういう人間関係を作ることから始めたいです。

若者たちの仕事への思い

萌:5月に久米島で初めてリナさんに会い、まず畑が広くて驚きました。山口さんの畑も広くて驚きました。あれだけ広い畑で同い年が植物を育てていて凄い。全ての植物に対して、かわいい、すごいと言っていて、人と接するように過ごしているのが印象的でした。同世代の働き方をいつも考えますが、自分の扱うものにこれだけ愛情を込められる人はなかなかいないのではと、その感性、働き方が素敵だと思いました。

春代:萌さんの同年代で普通の会社勤めをしている人たちとリナさんとの違いを感じますか?

萌:私が感じる範囲では、考えていること、日々の仕事、どう生きたいか、将来のことを話したくても、なかなかできません。仕事の話を楽しそうにはしない人も多く、仕事への愛情、未来へのビジョンが話題に出るかが違いだと思います。今の若者は今が精一杯で未来を描けないようにも思えます。

春代:リナさんもすべてが思い通りになるわけではなく、苦労もありますが、ぶれないビジョンがあります。

リナ:芯があればなんとかなります。

萌:誰も皆、芯はあると思うのですが、本当に思い描ける環境にいるか、言語化できるか、それを話して「えっ」と引かれないか。

春代:そのうち諦めてしまう。

リナ:どうせできないと言われる環境は今の自分にもあります。でも、それに耳を傾けても時間の無駄。だったら実践したい。

萌:山口さんの山ぶどうジュースを扱って2年目。1年目からすぐ完売したのは、ジュースの美味しさだけではなく、山口さんの人間性を応援したいと思う人が多かったと感じます。お客様とそうした嬉しいやりとりをさせてもらえるジュースを作ってくれている山口さんに感謝しています。山口さんは「野田村に恩がある」と何度も言っていて、それをお金で返すのではなく、満蒙開拓の歴史への尊重なども含めて行動で返しています。そういう生き方が、最初に話した「人のために動くと自由になる」とリンクします。これからどう生きていくかを考える時、自分に何ができるか、自分の得意なことは何かから考える人が多いと感じますが、山口さんは人のために自分はどう動くべきかを考えていますよね。

春代:山口さんは農業を学んだわけではないのに農業の世界に。この人たちと生きたいという動機があったということでしょうか。

光司:普通は教えてもらえないことも、何も分からない自分に教えてもらいながら、やっていくうちにそう思えました。山ぶどうの作業が純粋に好きなのもあります。

春代:農業をやったことがないし、何も知らないから無理と思う若者もいるかもしれませんが、その土地の人たちと本心でやりたいと思えば周りが支えてくれますね。

萌:私は出来上がった製品を販売する立場ですが、2020年夏に行った沖縄で、実際に生産者の方々に初めて会えたのが大きな経験でした。作る人の生き方、大切にしていることが商品の味に出ると心と身体と頭で理解でき、そうした商品を販売することに、やる気と責任の大きさを感じました。商品の良さを伝えていかなければと思っています。

農業に夢をかけて

春代:山口さんやリナさんから見て、若者に伝えたい農業の魅力は何ですか?生き方に迷う人、自殺する若者も多くいます。農業は自給率が下がり、休耕田も増えています。うまくマッチングできないでしょうか。

光司:世の中にはいろんな仕事がありますが、農業は人の不幸の上に立たないし、作ったものを喜んで食べてもらえるのも嬉しい。草刈りは大変だけど、剪定、つる切りなど山ぶどうの作業をしている時が楽しく大好きです。同じ頑張るなら、農業は担い手が少なくて困っている人のためにもなるし、やっている自分も幸せで楽しい。怠けたらそう返ってくるし、頑張ればそう返ってくる。リスクも自分持ちで、失敗しても人のせいにできませんが、その分やりがいがあります。それが自分に合っていると感じます。「人のために動くのが自分を自由にする」と言っていたのと同じように、植物のために動くのが自分を自由にします。世話させてもらうのが幸せ。いろんな人がいろんな関り方で農業に携わるといいと思います。自分より若い20代前半で農業をやる人が岩手でもちらほら出てきています。

春代:クラウドファンディングを活用する若者もいます。若い人たちが現代の手法を駆使して目指すのが、工場型の大規模農業ではなく、昔の百姓のやり方、伝統的農業というのが驚きであり、嬉しくもあります。若者に好きなように頑張ってもらい、それを横や下から支え、応援するのが私たち年長者の役割だと思います。

リナ:私の場合は、農家の娘で土地を持てていることをありがたいと思います。一般企業ではいろんな規則に縛られ、苦痛に感じ、それがストレスとなり色々追い込まれることもありますが、でも、それって農業も一緒。苦労した親世代が助言してくれるのは感謝していますが、そうした助言が敷かれたレールへの縛りとなり、自分のやりたいことができなくなることもあります。助言も参考にしながら自分の進めたいことを実践していくと応援してくれる人も現れます。農業は学びの場としても幅が広く、いろんな可能性を秘めています。ワクワクして自然とにやけてしまいます。きつい時にも畑にいるだけで、植物が吸収してくれて内側がクリーンになる。ありがとう、かわいい、頑張れよと思う。農業に携わって、いろんなことに気づきます。

1年後の自分、将来の夢

春代:この座談会がカタログに載るのは1年後の秋号です。1年後どうなっていると思いますか。

光司:将来の夢は無農薬の山ぶどうでジュース、ワインを作ること。少量しかできなくても、山ぶどうの魅力を最大限引き出してくれるジュースやワインを定番の贈答品にしたい。まずは減農薬。1年後の自分は、今の圃場と別に、無農薬無化学肥料専用の圃場を小さくても整備したいと思っています。

リナ:今回の研修で皆が強い芯を共通で持っていることを感じました。自分は減農薬、無農薬の芯をどうしていくかを確立したい。まずは品種選定をして、減農薬圃場を広げていきたい。

萌:私はまずはネパリでできることを増やしたい。伊江島で謝花さんにお会いして、阿波根さんが大切にされていたことが、ネパリでの活動に本当に繋がっている、資本主義のあり方とか、今の社会でいかに分かち合っていくかとかに繋がっている、自分の仕事に返ってきていると感じます。自分だけの学びにせず、ネパリの商品を通じて、同世代にも繋げていきたい。

春代:生き方、働き方によって伝わるものがありますね。信念をもち、実践を続けることで信頼を勝ち得て、5年10年経ったらすごいことになっていると思います。沖縄と岩手と横浜がつながって、さらにいろんな人、地域へとつながっていくのでしょう。将来が楽しみです。

対談から1年が経って…

◇山口光司さん

減農薬を目指し、使用を通常よりも少なくしましたが、1年目も2年目も収穫量が減ってしまいました。お借りしている畑では以前3トンは収穫して卸していたのに、出荷量が減り迷惑をかけてしまいました。本当は収穫量もそこそこ維持しながら農薬を減らしたいのですが。収穫量減少の原因は減農薬だけではなく、山ぶどうの仕立て方を一気に変えてしまったため、つるに隙間ができたり、雄の木が減って花粉が足りなくなったりしたこともあります。減農薬も含め、徐々に変更していく方がよかったようです。去年つる切りに手をかけたので、今秋の収穫量はあがりそうです。今年、来年と仕立てを整えて、再来年にはもとの収穫量に戻ることを目指しています。収穫量を気にしなくていい完全無農薬の圃場も作りたいのですが、新たに管理する圃場を増やすところまでは手が着けられていません。

無農薬ぶどう栽培をしている方にオンラインで相談をさせてもらいました。無農薬栽培も大事だが、それで生活ができるか、何を手放して、何を守るか、最終的に無理となってぶどう栽培自体をやめることにならないように、根詰めすぎず、もっと気楽に楽しんで、できる範囲のバランスを考えた方がいいとアドバイスを貰いました。夢を一度に実現しなくても、少しずつやりたいことの比率を増やしていくとか、一つのことに縛られず夢を広げていくとか、今うまくいかなくても、選択肢を狭めてはいけないと、出会ったいろいろな人の生き方から学びました。

◇仲地リナさん

1年前にこんなことを言ったのかと、いい意味で焦ります。農薬を使わなければ、付加価値がつき、自分たちも作物も健康体でいられる、より持続可能な農業ができます。意気込んで減農薬を始めましたが、菊がメインなので他のことにあまり手を付けられていません。農薬を減らしても、ゼロにするのは病害虫がつくなどリスクが高く、経験も足りず、甘く考えていた部分もありました。

農業は一人でやるものではなく、皆と情報共有し、皆が納得することが大事だともわかりました。親とも他の人とも関係をどう築くか、コミュニケーションも大事です。私は考えすぎて逆に動けなくなる所もありますが、最近から自分自身と向き合い克服しつつ、一歩ずつ踏み出してもいます。考えるのも大事ですがほどほどに、たくさん学びつつ、悩みつつ、振り返ったらできていた、となりたい。自分がどの方向に進みたいのかも課題。夢はいくつもあっていい。いろんなことを経験して、自分の目指す農業を見つけていきたい。自問自答しながらやっていきます。

6次産業、商品提案もやりたいですが、畑をやりつつ自分一人でするのは厳しい。花は食物と違って無農薬への理解が少なく、アピールも必要です。ネパリと一緒に、少しずつ形にできたらと思います。大変だけど楽しいです。

 

◇蓑田萌さん

この1年でどう成長できたのか、なかなか自分を俯瞰してみることができていないのですが、これまでネパリを通して出会えた大人の方たちや同世代の生き方を学ぶことができ、「自分らしく生きる」ということの大きな刺激になっています。周りの同世代も働き始めて7年ほどが経ち、キャリアを積み重ねて、世界を広げています。私たちの世代が、いつまでも新人ではなく、「20代の若者」よりももう少し上の大人のステージに入ってきているのだと感じます。商品やカタログ、お便りなどを通して、私が出会った方たちの生き方を同世代とも共有して、「自分らしく生きる」ための繋がりを作っていきたいです。

私も今年の9月で働き始めて5年目に入り、年末にはスタッフとして初めてネパールへも行くことができます。これまでは写真で見たり、スタッフの中での会話で様子を聴いたりしていた生産者や奨学生の方たちに実際に会え、完二さんや百合香さんとのやりとりの場に同席できるのは楽しみですが、ただ「行けた」「会えた」ではなく、どこまで自分ごとにできるのか不安もあります。沖縄に初めて行った時もいろいろな方に実際にお会いできた喜びは大きかったですが、ネパールへ行ったらどういう感覚になって、私の仕事にどう活かせていけるか、きちんと事前準備をしていかねばと焦ってもいます。ネパールで感じることを自分の言葉で伝えられるようにしたいと思います。