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ネパールの森から届いたはちみつの物語 tsuna12 2019s

はちみつの村を訪ねて

文・高橋百合香

チェパン族のシルング村へ

2018年 12月、はちみつの村を訪ねました。カトマンズから南西へ車で6時間程走り、チトワンの都市バハラプールに到着。そこからさらに車で2時間程、未舗装の山道で砂煙が舞う中を、右に左に大きく揺られながら上り、川の中を渡り、ようやく目的地のシルング村に到着しました。チェパン族の方々が暮らす村です。

ちょうど、村人たちが協力してはちみつを収穫しているところでした。はちみつの蜜源はチウリの花。見渡すと村のあちこちに大木がそびえたっていて、白い花が咲き誇っていました。チェパン族の方々は、チウリの木をとても大事にしています。チウリは崖っぷちに根を張り、大木になり、崖崩れを防いでくれます。花からは蜜がとれ、実は甘くて美味しいフルーツに、種からは良質なオイルがとれて、とても丈夫な幹は建材に。娘が結婚する時は、チウリの木を持たせる習慣があるほどです。中でも、水が少なく乾燥していて作物が育ちにくいシルング村では、痩せた土地でも育ち、様々な気候条件に適応しやすく、養蜂で収入の機会を得られるチウリの木は非常に貴重です。

サニタ・マヤ・チェパンさん

小柄な体でてきぱき働くサニタ・マヤ・チェパンさん(27)にお会いしました。家畜の世話やとうもろこし栽培など家の仕事を手伝ってきて、学校に行ったことはありません。2年前に家族から養蜂を学び、4個の巣箱から始めました。今は 30個持っています。養蜂を始めて自分でお金を稼げるようになって、大きく変わったといいます。「これから学校に行くわ!遅いなんてことはないでしょ」と私たちに明るく言ったサニタさんでしたが、帰る間際、マハラクシュミさんに相談していました。「養蜂のトレーニングを受けて、技術をしっかり学びたい。読み書きでないけど大丈夫かしら」マハラクシュミさんは、「大丈夫、いつでもサポートするから。マーケットのことも心配しなくていい。採れた分は全部買い取るから、養蜂に専念して一生懸命頑張りなさい!」と、サニタさんの背中を押していました。

継続したマーケットの重要性

村で採れたはちみつは、養蜂の専門家マハラクシュミさんが経営する「Beekeeping Shop」で低温殺菌、濾過、厳正な品質管理を経て日本に届きます。マハラクシュミさんは、生活が厳しい村々の収入向上のため養蜂のトレーニングをし、養蜂を始めた生産者からはちみつを仕入れています。トレーニングも大切ですが、その先のマーケットがなければ、生産者は簡単に挑戦することができません。はちみつを買い取るマハラクシュミさんの存在が生産者にとってどれほど大きいか、計りしれません。私たちネパリ・バザーロの役割も同じです。はちみつが、生産者一人一人の人生に、そして次の世代に、大きく関わっていることを再認識したはちみつの村訪問でした。

自然豊かで、農薬がこれまで使われてこなかったネパール奥地の村々は、養蜂に最 適です。養蜂は、環境を守り、生き物・自然と共生し、村人の収入につながる森の 産業です

蜂に刺されないように、ネット の中で作業します

巣板の表面を削って、遠心分 離器にかけると、はちみつが出 てきます。その後濾して、不 純物を取り除きます。巣板は巣箱に戻します。これらの作業は全て手作業で行い重労働のため、一人では できません。村人たちが持ち回りで、それぞれ助け合いながら作業をしています。

右から、マハラクシュミさんとサニタさん。

巣箱から巣板を取り出し、蜂を取り除きます。驚いた蜂が攻撃してくるので、 危険な作業です。

チウリの大木。12~1月頃白い小さな花が集まって咲きます。 木に近づくと「ぶーーーーん、ぶーーーん」とたくさんの蜂の羽 音が響いていました。蜜源のチウリの花に集まる、蜂の大合唱 です。

チウリの木の根元に、ルディロが咲 いていました。まだ蕾ですが、4月頃紫の小さな花が咲きます。葉はと ても良い香りがするため、お香や香 水、ハーブティーなどとして栽培され ています。開花時期が短く花は小さいため、採れる量はわずかです。

(つなぐつながる 2019夏号 Vol.12より)