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スパイスのおいしさの秘密 tsuna16 2020s

地域開発 人が人らしく生きるために

ネパールでのスパイス開発の現場から

 ネパールの奥地の村々から届く、フレッシュスパイスの魅惑の香りと味わいは、私たちの食欲を刺激します。私たちは、ネパールの遠隔の村々で、自然にそった農法での栽培にこだわってきました。それは、多様性のある自然豊かな環境を守ることが、村人たちの仕事の機会と収入を生み出し、彼らの暮らしと尊厳を守ることにつながると考えてきたからです。

 2019年5月、カカオの産地インドのカルナータカ州の村を訪問した際、村人たちが自分たちの農業の基本精神を、「フクオカ、ジャパン!」「フクオカ、ジャパン!」と誇らしく教えてくれました。福岡正信氏の自然農法を学び、実践しているそうです。多品種の作物を育ててリスク分散をしたり、カカオの皮は牛の餌や肥料にしたりと活用し、化学肥料や農薬を買わなくていいので出費が少なく、且つ収入を生んでいるのです。その概念は「LISA(Low Input Sustainable Agriculture / 低投入持続型農業)」といい、私たちが長年ネパールの産物を通して実践してきた地域開発の理念と通じます。そこで、沖縄カカオプロジェクトのブランド名を「LISAチョコレート」と名付けました。私たちの活動の集大成でもあります。

 昔、金銀より高価で戦争の種を蒔いたスパイス。今、平和の使者として、ネパール、インド、沖縄、福島、岩手、そして私たち消費者をつなぎ、希望ある未来へと導いています。ネパールのスパイス産地に想いを馳せ、皆様と共に、誰もが幸せに暮らせる未来を描いていきたい思います。

ネパールの有機農業への歩み

 私たちネパリ・バザーロ(以下ネパリ)は、ネパールの農産物の取引を始めた頃から、ネパールで農薬使用が広まりつつあった状況の中で、作る人にとっても、食べる人にとっても安全で安心できる農法を追及しようと、有機農業を進めてきました。

 当時、取引の申し出を受けていた東ネパールのカンチャンジャンガ紅茶農園(以下KTE/注1)がネパールで唯一、国際標準の有機認証を受けていました。そこで、私たちが栽培支援をしていた西ネパールのグルミ、アルガカンチの将来のためにコーヒーでも有機認証を得ようと決意しました。ところが、オーガニックという概念がまだ一般的ではなく、農薬も化学肥料も使用したことのない農民たちはわざわざ証明を取る必要性を理解できず、1998年、オーストラリアから検査官を招いて現地調査を行い、「ここなら直ぐに認証は取れる。早く申請しなさい」と奨められたにもかかわらず、いつまでも書類作成に協力的ではありませんでした。何度も現地に通説得を重ね、ようやく2006年ネパール初のコーヒーでの有機証明取得に至りました。現在コーヒーは、有機農業が当たり前になっています。

遠隔地の生活向上に寄与するために

 スパイスは、町から遠く離れ、生活とても厳しい農村部の村人たちの収入向上と環境保護に役立つ非木材生産物(Non Timber Forest Products)として注目されてきました。植えてから収穫までの期間が数ヶ月と短いため、投資負担がわずかですみます。とても強く、荒地でも逞しく育ちます。僅かな土地しかなく、収穫まで数年を要する紅茶やコーヒーを栽培することができない厳しい状況にある農民にとって、スパイスの市場が見つかれば、貴重な現金収入の機会となり、生活改善が見込めます。私たちは、困窮している農民の生活向上を目指し、本格的にスパイス栽培に取り組むことを決め、スパイス製品の全種を生産者の顔が見える有機栽培のものに切り替えてきました。

スパイス栽培の難しさとマーケットの重要性

 紅茶、コーヒーと違い、スパイスは多品種が必要となるため、栽培地域も広く分散しています。暑く湿気のある土地でなければ採れないスパイスもあれば、寒冷地や乾燥した場所が適したスパイスもあるからです。私たちは、東ネパールのKTE、西ネパールのグルミ、首都カトマンズの南西で陸の孤島といわれるシリンゲ村でスパイス栽培に取り組んでいます。私たちは小規模な組織や、より困窮している生産者一人ひとりと密接に関わろうとするため、異なる地形や気候で栽培条件や生活環境が違い、また文化や習慣なども様々な生産者とつながることになるスパイスはより困難を極めます。さらに生産から加工に至るまでの工程が複雑で技術を必要とし、利害の異なる関係者が多く絡みます。ネパールでは民族やカーストの異なる組織間での協働はとても難しいため、彼らを先導する私たちの役割、そして日本で愛用くださる消費者の皆さまの存在とても重要です。

スパイス産地カンチャンジャンガ紅茶農園

 スパイス産地の一つであるKTEは、東ネパールのパンチタール地域にあります。世界第3位の高峰、カンチャンジュンガを臨んでいます。スパイスは、KTEが管理する畑で栽培されたものと、奥地の農家の人々が、10~50世帯前後のグループや協同組合を作って栽培したものがあります。主に山岳地帯に住むリンブー族のグループが中心になっています。彼らは自然を神として崇め、先祖代々の土地を最良の状態で守っていくという意識が高く、そのための研究や挑戦にとても熱心です。基本的に先人の教えに沿った農法を引き継いでいますが、なかには農薬を使って生産量を一時的に伸ばしたものの土地が荒れ、その反省から有機農法に転換した生産者もいます。遠隔地で貧困に苦しむ中、尊厳を守るために自分たちからマオイスト(反政府勢力)闘争に参加したとも云われる誇り高い人々です。

紅茶からスパイス、奨学金支援から生まれる未来への希望

 2019年12月、KTEを訪問し、スパイスの畑を訪ね、専門教育支援(注2)の奨学金候補生の面談をしました。私たちが2002年よりKTEと共同で実施してきた奨学金支援により、KTEで働くワーカーの子どもたち全員が学校に行かれるようになり、専門教育を受けるチャンスも生まれました。現在は専門教育を受けた卒業生が村に戻り、獣医として村々を回ったり、薬局を開業したりとロールモデルが登場し始め、地域活性化に大きく寄与しています。今回は13人の面談をしましたが、そのうち6名がリンブー族の若者でした。KTEのラニタール地域の茶園のスーパーバイザーに抜擢されたリンブー族のディルバハドゥールさんが、積極的に若者たちを連れてきたことも一因です。奨学金支援が地域に定着してきたとはいえ、奥地で厳しい生活を強いられてきたリンブー族の方々が、このような機会をつかむことは、並大抵のことではありません。数年前には考えられなかった変化がおきています。スパイスを通した遠隔の村々への地道な取り組みが、着実に成果を得てきていることを実感しました。紅茶やスパイスなどの取引と教育支援の並行した取り組みによって、若者たちが将来の選択肢を得られ、そして村を誇りに思い、人々の生活向上に役立ってほしいと願っています。

人の背丈ほどに成長したターメリックの葉

山の斜面に群生するカルダモン。実は根元になります。

一面のマスタード畑と奨学生のレッカさん。

斜面に広がるコリアンダー畑。

フレッシュなジンジャー。

奨学金候補生たち。

急斜面に建つ家

ぜひ、スパイスカレーをお愉しみください!

野菜たっぷりのスパイスカレー。フレッシュなスパイスが、野菜の旨みをぎゅーっと引き出します!

ゴーヤーと豚肉のカレー。ビタミンCたっぷりのゴーヤーは、豚肉と相性ぴったり!

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商品は、こちらから。

(tsuna 2020夏 vol.16より)