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アネモネとそよ風 tsuna05

第二話 会津電力株式会社

福島で始まる「電力」と「社会」の未来

文・友岡雅弥

九代続く伝統 

福島県会津地方の北部に位置する喜多方市。
お邪魔したのは大和川酒造。創業は寛政2年(1790年)。当主は代々、佐藤彌右衛
(さとうやうえもん)を名乗り、当代は九代目です。歴代「彌右衛門」さんを訪れた文人墨客たち、高浜虚子や柳原白蓮、武者小路実篤、小川芋銭、河井寛次郎、柳宗悦などが、友情のしるしとして残したものが大和川酒造には残っています。誠実に、淡々と家業を続けてきた「来し方」がうかがえる歴史のしるしが、建物のそこかしこに。
大和川酒造は、奈良から大阪を流れる大和川にルーツをもちます。

江戸時代の初期、河川改修の技術者たちが氾濫を繰り返す大和川の治水に成功し、出来た土地に綿花を植えていきました。歴史に名を残す大和川流域の綿花、木綿は、そのようにして生み出されたのです。そして、東へ東へ。水の豊かな会津地域に定住し、ここでも綿花栽培を成功させます。会津の木綿は、今でも全国的に有名ですね。そして、財力を蓄え、1790年に、酒造業を始めたのです。

喜多方といえば「蔵」、そして「ラーメン」が有名です。「蔵」は、ここで酒・味噌・醤油などの醸造業、そして藍染めが発達していたことに関係します。喜多方ラーメンは、蔵で作られた上質の醤油がベース、そして職人さんを始めとする庶民の食べ物でした。

「蔵なんか時代遅れ。これからはアーケード街だ」という声のなか、蔵の保存(町村合併前、人口3万人足らずの町で、蔵が3000近くあった)に尽くしたのが、先代の彌右衛門さんです。「全国町並保存連盟」のリーダーとして、各地の歴史的町並保存に尽されました。やがて「蔵とラーメンの町・喜多方」は大人気となり、25万人ほどだった観光客が、一気に120万人まで増えたのです。

私が出来ること

長い伝統を誇る家業は、全国新酒鑑評会(酒類総合研究所主催)でこの6年間連続して金賞受賞の実績から分かるように、今も、その技は輝いています。さらに、当代・彌右衛門さんはもう一つの会社の「社長」でもあるのです
会津電力株式会社。2013年8月1日にできたばかりの電力会社です。
2011年3月。東日本大震災、福島第一原発事故。全村避難が続く飯舘村とは、昔から家業でつきあいが深く、他人事とは思えなかった。福島全体への風評被害もある。
「反原発を叫ぶことも大事。しかし、私たちは経営者。原発がない社会を作るため、具体的事業を起こすことが果たすべき責任」
そして生まれたのが会津電力です。また、飯舘村での電力会社を興す事業も着々と前進させていらっしゃいます。しかも、「打つ手」が具体的。まず、技術としてかなり完成している太陽光発電所を立ち上げました。そして、次はバイオマス。
太陽光は、建設したあとはメンテナンス中心なので、あまり雇用を産みません。バイオマスは、木材や食品廃棄物など、発電の原材料を生産するために、地元に持続的雇用を産みます。
ところで、彌右衛門さんは、「地酒」という言葉の生みの親「全国地酒協同組合」の代表理事を務めていますが、とともに、再生可能エネルギー発電に挑戦している団体の集まりである「全国ご当地エネルギー協会」の代表理事を務めています。「地酒」と「ご当地エネルギー」という二つの「ローカル」をリードする彌右衛門さんなのです。

ローカルが世界へつながる 

2016年11月3〜4日。ドイツ連邦環境庁やICLEI (持続可能性をめざす自治体協議会)などの協力のもと、世界20カ国から数多くの人々が福島市に集い、「第一回 世界ご当地エネルギー会議」が開かれました。
彌右衛門さんは共同代表、会議のまさに中心でした。会議名の「ご当地エネルギー」の英語表記は、〝Community Power〟です。「ローカル」は、顔の見えるつながり、「コミュニティ」でもあるのです。だから、「国」を越えて「世界」へとつながったのです。
そして、それは「私」を超えた「公」=「パブリック」でもあるのです。彌右衛門さんの口ぐせが、「公共的株式会社」です。自社のためではなく、地域のための会社を目指そうというのです。
「パブリック」「コミュニティ」「エコロジカル」――今、日本社会の大きな転換の歩みは、福島から始まっているのかもしれません。

1枚目写真
九代の歴史を誇る大和川酒造。老舗の風格が漂うのれんの前で、当代・佐藤彌右衛門会長。


豪雪対策も万全。毎時1 メガワットの発電量を誇る、雄国発電所。その他、約50 の施設(建設中も含む)を地域ごとに建設。
※「第一回 世界ご当地エネルギー会議」 http://www.wcpc2016.jp

アネモネとそよ風 

風で花粉を運ぶ「風媒花」は英語で「アネモフィリー」。「アネモ」はギリシャ語で「風」を意味します。早春に咲く、アネモネもそれに由来します。昆虫や動物によって拡散する植物は、花が派手で蜜やいい匂いを持ちます。「風媒花」は、概して地味です。でも見つけ出す風があれば、遠くまで飛んでいきます。社会の片隅で、今、すでに未来がはじまっています。「アネモネ」の花言葉の一つは、「信じて待つ」。未来を信じ、見つけ、届けることのできる「風」になりたいと連載です
(つなぐつながる2017春 vol.5より)