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虹色の星座 田中明美さん tsuna30 2023w

虹色の星座 小さな光を繋ぐ未来へ

カカオフレンズを訪ねる 連載 第10

田中惣一商店 田中明美さん

取材・文・写真 簑田理香

広大な宇宙に散らばる小さい点のような星でも、線で繋いで結んでいくことで夜空に大きな星座が見えてきます。沖縄カカオプロジェクトは、インド、ネパール、沖縄、東北の生産者さんたちだけではなく、全国各地のカカオフレンズの皆さんお一人おひとりの思いや願いが結ばれて、未来の姿が描かれてゆきます。フレンズの皆さんは、どんな思いで、リサチョコレートを手にしてくださっているのでしょうか。カカオフレンズのお話を伺う連載、第10回をお届けします。

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東京駅から電車で南へ向かうこと二時間半。房総半島南端の館山市に「金物」「フェアトレード」という2つの看板を掲げた田中惣一商店があります。通りに面したお店のドアを開けると、左のスペースには、さまざまな種類の包丁、ハサミ、草刈り鎌やナタ、クワなどの農具が所狭しと並び、右のスペースにはフェアトレードの食品や衣服、小物などがカラフルな空気を纏って並んでいます。その合間に収穫したばかりのような白い綿が入った袋があったり、福祉との協働での就労支援を呼びかけるチラシがあったり。窓にはSDGsの解説ポスターも貼られています。


お孫さんが描いてくれた看板を囲んで。田中明美さん(左)と、お店のお客さんでもあり活動を時々手伝ってくれる仲間でもある和田照世さん、鈴木由美子さんと。

グローバルもローカルも地続きで

この個性豊かな金物屋さんの店主は、カカオフレンズでもある田中明美さん。お店の誕生は、1951年。戦争が終わって、ほんの数年後、お父様の惣一さんは、700年の伝統がある越前打刃物(えちぜんうちはもの)を携えて、福井県から千葉県まで行商に来ました。親戚も知り合いもいないなか、誠実な人柄で地域の信頼を得ながら田中惣一商店を開きました。

田中さんはお店を手伝いながら、23年前からフェアトレードの商品も扱うようになります。きっかけは、当時、短大生と社会人だったお子さんたちの言葉。
「フェアトレード商品の卸の会社に勤める娘さんを持つ友人から、チョコレートをいただいたんです。それがとにかくおいしくて。保存料など添加物も入っていなくて、食べるだけでも国際協力ができる。その魅力を家庭で話していたら、子どもたちが、『それなら、お母さんが、お店で売ればいいんじゃない?』って。ああ、そうだね!という軽いノリで始めたんです」

今では常に5社前後の商品を仕入れ、秋冬には80種くらいのフェアトレードチョコが店頭に並ぶそうです。
「チョコは甘い方が好き、という方も多いんですが、ネパリさんのL I S Aチョコのようにカカオ分が高いものの良さも伝えていきたいですね」

田中さんを訪ねたのは、ちょうど沖縄カカオプロジェクトの進捗や沖縄スタディツアーの報告や参加者の寄稿を掲載する「ニュースレター第9号」が届いた直後のことでした。
「今回は、久米島の農家、阿嘉茂さんが育てているカカオの実が熟して種が採れたことも書かれていて、写真と共に皆様の喜びが私にも伝わりました。沖縄でのカカオ栽培が広がってゆくこと、本当に楽しみです」

田中さんにそんなお話を伺っている間も、お店にはお客様や活動のお仲間の訪問が絶えません。田中さんは、フェアトレード商品の紹介・販売だけではなく、お店を拠点に、手仕事などを通して地域の課題解決につながるようなワークショップをさまざまに展開されていて、まさに地域の拠点となっている様子が窺えます。例えば、獣害駆除で捕獲され、ジビエ肉に加工されるイノシシ等の革を利用して小物を作るワークショップ。ビーチクリーン活動で拾うシーグラスを用いた額づくり。

記事の冒頭で紹介した「店頭に置いてある白い綿」もプロジェクトの1つでした。オーガニックコットンのブランドが進めている「和綿の種ひろがるプロジェクト」に参加している田中さん。現代では希少種となっている在来の綿の栽培を広めるべく、種の配布や、収穫した綿で、昔ながらの道具を使った綿繰りワークショップを企画するなどされています。

お店に来てくださっていたご友人たちは口を揃えて「明美さんがいろんな商品を扱ってくれるし、まわりの世話を焼きながら、いろんなことを企画してくれる。だから、私たちのなんでもない日常が、とても楽しくなっているんです」と、話してくださいました。その傍で田中さんは「ただのお節介で、みんなが喜ぶことが好きなだけなんですよ」と、笑います。

先代のお父様は、一枚の市販の地図だけを頼りに館山に行商に来たとのお話を伺いました。お父様と夫の芳雄さんも応援してくれていたという田中さんの活動は、地域の人たちと共に、進むべき方向を模索する地図づくりのようにも思えます。ローカルもグローバルも地続きで、日常から楽しく変えてく・・・そんな、未来のイメージが広がりそうです!

 

取材・文・写真 簑田理香
栃木県益子町在住。地域編集室簑田理香事務所 主宰。