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虹色の星座 塩原佳世乃さん tsuna33 2024a

虹色の星座 小さな光を繋ぐ未来へ

カカオフレンズを訪ねる 連載 第14回

塩原佳世乃さん

取材・文・写真 高橋百合香

広大な宇宙に散らばる小さい点のような星でも、線で繋いで結んでいくことで夜空に大きな星座が見えてきます。沖縄カカオプロジェクトは、インド、ネパール、沖縄、東北の生産者さんたちだけではなく、全国各地のカカオフレンズの皆さんお一人おひとりの思いや願いが結ばれて、未来の姿が描かれてゆきます。フレンズの皆さんは、どんな思いで、リサチョコレートを手にしてくださっているのでしょうか。カカオフレンズのお話を伺う連載、第14回をお届けします。

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たびたびギフトのご注文を下さり、人生の大事なタイミングでの贈り物に選んで下さっていることを感じ、とてもありがたく嬉しく思っていました。2024年7月、初めてお会いした塩原さんは竹布チュニックを着られていました。長女の妊娠中にマタニティウェアとしてご愛用下さっていたそうです。塩原さん、娘さん、ネパールの生産者、そして私たち…商品を通して人生が交差していたことをしみじみと感じました。「若い頃はフェアトレードを知ってもなかなか買えませんでしたが、仕事をするようになると、適正な労働力ってこういうことなんだなと納得。少しずつ買えるようになりました。仕事ってありがたいですね」と言われる塩原さん。「沖縄でカカオが育つということに驚いて、さらに、体に良さそうなチョコレートだなと思って。自分も食べたいし、子どもにも食べさせたいと思って沖縄カカオフレンズになりました。カタログで沖縄の若い女性がカカオを育てている姿を見ていると、応援したい気持ちになります」と微笑まれます。木の香りが漂うご自宅で、小鳥のさえずりを聞きながらお話を伺いました。


木漏れ日が美しい山道を入ったところにご自宅があります。左の写真は、娘さんと塩原さん。右写真は、お訪ねしたネパリスタッフと。

人間とは? 自由に生きるために。

東日本大震災の時は妊娠中だった塩原さん。当時住んでいた東京もかなり揺れました。津波と福島第一原発事故のニュースが続々と報じられ、原発が危機的な状況にも拘わらず対応策がないことに驚愕し、これからどうなってしまうんだろうと不安を覚えたそうです。しかし僅か2~3年で、経済活性化のためにも原発は必要だという論調が日本社会の主流に。さらにコロナ禍で、超過密都市・東京で暮らすことの不自然さにも気付かされました。自然と共にある暮らしの中で、自分自身、そして子どもたちの生きる力を育んでいきたいと考えるようになり、2024年春、ご縁が巡り合い山梨県北杜市に移住しました。

できるだけ自然素材や自然エネルギーを活かした暮らしを目指し、薪ボイラーを取り入れ、窓の位置や土壁などにもこだわって家を建てました。ところが待っていたのは、お風呂のお湯をわかすのにも1時間もかかる生活。「最初は薪ボイラーにうまく着火できず、時間もかかるし、もう嫌だ!と怒っていたよね」とパートナーの広和さんと笑って顔を合わせられます。自然が大好きで、都市と森をつなぐ持続可能な生き方を志してこられた広和さんは、自然が思い通りにならないことは百も承知。「火はこうやったらつくからね。でも時間はかかるよ」と動じることなくさらっと言われていたそうです。

現在、東京女子大学で言語学を教えられている塩原さんは、もともと英語が好きで、大学で言語学に出会いました。英語と日本語を中心に、様々な言語の共通点を探ることから人間の言語に迫るという研究手法に魅了されたそうです。卒業後はカナダに留学し、様々なルーツがある仲間と出会い多様性に触れ、言語学研究の道に進むことを決めました。「人間が動物と違うのは、言葉を使ったコミュニケーションをするということ。言語を知ると人間のことが分かります。〝人間とは?〟という問いが自分の根源にあります」と熱く語られます。

小2と中1のお子さんがいらっしゃる塩原さんは、学校が実学主義になってしまっている現状に危機感があるそうです。すぐに仕事に役立つことが重視されがちですが、本来は、生きる力が伸びると子どもたち自身が実感できるような教育が大切なのではと投げかけられます。「自分を自由にするためにあるのがリベラルアーツです。論理的な思考を積み重ねて大人になると、様々な視点から考えることができて、自分自身も楽になり、自由に生きることができます。生成AIが身近になった現代こそ、〝人間とは?〟という正解のない問いに向き合い続けることが、きっと深い幸せに導いてくれると思っています」塩原さんの穏やかな眼差しから、教育に対する強い思いがひしひしと伝わってきました。

「子どもたちに対峙するのは、とても大事な、責任のある仕事ですよね」と塩原さん。これからは、より若い世代の教育や、地域に暮らす日本語を母語としない方たちにも関わっていきたいそうです。自然と共に、幸せに生きられる社会を次世代に引き継げるよう、これからも共に歩んでいきましょう!

取材・文・写真 ネパリ・バザーロ 高橋百合香