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虹色の星座 土井ゆきこさん tsuna19 2021s

虹色の星座 ~小さな光を繋ぐ未来へ~

カカオフレンズを訪ねる連載第1回
愛知県豊田市 民家カフェ「風の庭」内

「フェアトレードショップ風‘s(ふ〜ず)野入店」
土井ゆきこさん

取材・文 簑田理香

広大な宇宙に散らばる小さい点のような星々でも、線で繋いで結んでいくことで夜空に大きな星座が見えてきます。沖縄カカオプロジェクトは、インド、ネパール、沖縄、東北の生産者さんたちだけではなく、全国各地のカカオフレンズの皆さんお一人おひとりの思いや願いが結ばれて、未来の姿が描かれてゆきます。フレンズの皆さんは、どんな思いで、リサチョコレートを手にしてくださっているのでしょうか。カカオフレンズのお話を伺う連載、スタートです。

名古屋市内で生まれ育った土井さんが4年前に夫の明弘さんとともに暮らし始めたのは、豊田市の稲武(いなぶ)エリアにある里山です。大きな古い民家にご夫婦で少しずつ手を加えながらカフェを開き、昨春から民泊も営まれています。
土井さんは1996年に名古屋市内でショップを立ち上げ、フェアトレードタウン運動などを通して、長年にわたり地域のフェアトレードの活動を牽引してきた草分け的存在です。

「昔は2階にお蚕部屋もあったみたい。私は庭にある桑の木の葉を摘んで乾燥させ、フライパンで炒ってお茶を作って、おいしくいただいてます」。
四季折々の自然とともにある暮らしを楽しんでいる土井さんは「現代社会では、もっと手仕事と農業の価値を見直すことが必要よね」と続けながら、フェアトレードに関心をもったきっかけを話してくださいました。
「私の場合、入口はバナナでした。まだ子どもたちが小さい時に、日本が輸入しているフィリピンのバナナ農園で働く人たちが、農薬の空中散布による健康被害や過酷な労働条件で苦しめられている現実を突きつけられて、ショックで・・・。それまで社会のことも海外のことも何も考えてこなかったから・・・」。
それから40年。「今もバナナ農園の現実は変わっていないし、自分自身も25年近くフェアトレードのお店を続けてきても、社会がより良い方向に変化してきたという実感が得られていない」と土井さんは言います。
「それでもずっと活動を続けてこられたのは、人との出会いや繋がりがあったから。特にネパリ・バザーロとの出会いを通して、しっかりとした軸を持つことができたことが大きいですね」。

ネパリ・バザーロの土屋さんから、早い時期に沖縄カカオプロジェクトの構想を聞いた土井さんは一も二もなく賛同し、2019年10月には、カカオフレンズのスタディツアーに参加して、土屋さんと一緒に沖縄を訪ねます。
訪問先のひとつ、伊江島には、沖縄のガンジーと評された反戦活動家の故・阿波根昌鴻(あはごんしょうこう)さんが残した反戦平和資料館「ヌチドゥタカラの家(命どぅ宝の家)」があります。ネパリ・バザーロのスタディツアーでは、阿波根さんの後を継ぎ館を守る謝花悦子(じゃはなえつこ)さんのもとを毎回訪れています。
「私は謝花さんに初めてお会いしたので、ネパリさんの商品も扱うフェアトレードの店を25年近くやっていて、フェアトレードとはこういうもので・・・と話していたら、謝花さんが、ハッとした様子で『あなたたちを阿波根が生きているうちに会わせたかった。阿波根が言っていたことが初めて理解できた』とおっしゃったんです」。
阿波根さんは、生前「資本主義を変えることができなくても、その中で富の公平な分配が必要だ。そんな世の中を目指さなければ」と話されていたそうです。資本主義の中で、果たして富を公平に分け合うことができるのだろうか。謝花さんは、そんな疑問も抱いていたのかもしれません。フェアトレードや沖縄カカオプロジェクトの話を、公正で平和な社会づくりの手段として理解されたことで、阿波根さんの言葉とフェアトレードがパズルのピースがはまるように繋がったのでしょう。土井さんにとっても、新たな気づきのきっかけとなりました。

「あらためて沖縄カカオプロジェクトの意味が理解できました。今の日本の現実がよく見えてくるし、沖縄が抱えている様々な問題を知ってモヤモヤしている人には、リサチョコが入口になります。リサチョコの濃厚な味わいは、人を幸せにするし、子どもたちにとっても身近な入口です」。
土井さんの眼差しは、最後に子どもや若い人たちに向けられます。

「社会がより良い方向に変化していくには時間がかかります。だからこそ、子どもたちや若い世代に、大人たちがどんな姿を見せていくかが大切です。これまでに100回以上、子どもたちにワークショップを開催してきた経験から言えるのは、子どもは、心が揺さぶられたら自分から動く力を持っているということです。夢を語り合い、誰もが参加できる方法で、とてつもないアイデアを実行しようとしている大人の姿を、子どもたちにしっかりと見せていきたいですね」。

風”s 野入店
愛知県豊田市野入町越田和2-5
TEL :0565-77-3130

取材・文・写真 簑田理香
栃木県益子町在住。地域編集室簑田理香事務所 主宰。

(つなぐつながる 2021春 vo..19より)