座談会・工房『椿のみち』 tsuna31 2024s
働く仲間、つながる想い
2023年7月16日 聞き手:土屋春代(ネパリ・バザーロ創立)
2011年の東日本大震災直後から被災各地で支援活動を開始、陸前高田では顧客の方達の安否確認、外国人妻の一時帰国支援、仮設住宅のお年寄りの生活不活発病防止の支援等をしました。障がい者施設の起ち上げにも協力し、その事業として陸前高田の名産の椿油の復活を目指し製油所を建設しました。建物と製造機器一式は施設に寄付するつもりが、2012年11月の開所直前に辞退の申し出を受けネパリが運営せざるを得なくなりました。2013年に工房「椿のみち」として本格始動し、仮設住宅の方々の就労の場になりましたが大赤字が続き、立て直しのためコスメ「クーネ」を開発、さらに2017年スタートの沖縄カカオプロジェクトのチョコレート製造部門として工房は欠くべからざる存在になりました。
ネパリとの出会い
土屋春代(以下:春代) 工房の製品は皆が手間暇惜しまず大事に作っていて美味しいと大好評です。工房スタッフの情熱をお伝えしたいと考え、今回の座談会を企画しました。まず、皆さんが働き始めたきっかけは?
伊東恵美(以下:恵美) ここが本格稼働し始めた2014年9月から働いています。津波の被害を受けた実家を建て替えたばかりで、ネパリを含めて3つの仕事の掛け持ちでした。フェアトレード団体とも知らず、自分の生活の再建、稼ぐことが優先でした。
小野寺明子(以下:明子) 2011年5月から自営業を始めていました。地元特産品を発信して身を立てたいと思っていたので、椿油の仕事と聞いて、これだと2018年秋に応募。体調の思わしくない時もあり、やりたいこともあるのを、面接で全部春代さんに話して受け入れてもらい、輝けるところで輝いてと採用してもらったのが忘れられません。工房は互いを認め合い、生活スタイルを理解し、懐が深い。自分の作った椿油が売れるのが嬉しくて、1本でも多く良いものを作って、届けて、喜んでほしい。
大場茜(以下:茜) 以前は施設の調理員を3年ほどしていました。出産で退職するルールがあり、出産1年後にいざ前の仕事に戻ろうとしたら、時間の融通がきかず、子育てしながら働く難しさを感じました。別に見つけた仕事では、慣れてきたら人間関係の難しさが出てきて、気持ちが耐えられなくなり退社。ハローワークの人から勧められたのがネパリでした。椿の選別に興味を持ち、時間帯も良く、面接を受けました。気持ちが落ちている時だったので、春代さんの言葉全部が優しくて、自分も優しくなれました。2018年秋に働き始めてからは少しでも役に立てたらと、がむしゃらに仕事をしてきましたが、それが全部楽しかった。居心地の良さだけではなく、一人でやり遂げる責任感も芽生えました。前職では先輩や上司から言われた通りに働くだけでしたが、ここでは自分で考えてやらないと進みません。考えて動くようになって、自信がつき、強くなり、気持ちも安定しました。ある日、チョコレート作りの話をされびっくり。楽しそう、美味しそう、やります!と即答しました。工房に工房長はいませんが、チョコレートは自分が責任者でと言われ、しっかりしなければという気持ちが自分にとっていい方向に作用したと思います。自分で考え、意見を発信できるようになったのが自分の変化したところ。外部からの見学や研修で作業を教えることも良い経験です。前日はドキドキしてご飯も喉を通りませんが、始まると言葉が勝手にすらすら出てきます。沢山苦労しながら、仕事に助けられている、大切な工房です。
蒲生直子(以下:直子) 介護していた夫の父が亡くなって仕事を探し、ネパリに興味を持ち2019年秋に面接を受けました。けれど今度は自分の父が病気になり介護で青森に通うようになりました。父が亡くなり葬式を終えた帰宅途上に春代さんから電話が入り、採用が決まりました。父を亡くした悲しさと共に、次のステップが決まった嬉しさを感じました。いい環境で働かせてもらっています。
金野沙織(以下:沙織) 震災で仕事場が流され離職。震災後に長男、次男を出産し、しばらく子育てに専念しましたが、2019年に仕事を探し始めました。条件重視でゆっくりハローワークに通っていたところ、半年後にネパリの求人票を見て初めて面接を受けました。時間帯も子育てに良かったし、お菓子作りが好きな人、細かい仕事が好きな人、まさしく自分だと。採用が決まった時には、自分はやはりここに縁があった、待った甲斐があったと思いました。
チョコレート作りが繫いだ絆
春代 チョコレート製造がこの工房にとってターニングポイントでした。恵美さんがもうすぐ10年。あっという間でしたね。これまで大変な時期もありました。初期はいろんな人が入り、短期間で辞めました。工房長は置かず、期間の長短はあってもフラットに考えていますが、恵美さんがまとめてくれているおかげで工房がここまで来られました。
恵美 工房に仕事があまりなく大変だった時期を知っているからこそ、大切な工房を守りたい、スタッフ皆と良い商品を作りたいと思ってきました。
春代 横浜にいる自分はなかなか陸前高田の工房まで来られず、日報だけでは状況が分かりませんでした。工房でスタッフが短期間で辞めて大変な時に恵美さんが様子を教えてくれていました。恵美さんが工房を大事にしているのが伝わってきました。
恵美 やきもきして、勇気を出して、ショートメールをしたのがきっかけです。
春代 仲良しグループではなく、仕事の仲間だという考えが恵美さんと共通していました。皆が気持ち良く仕事ができるようになり、チョコレート製造が加わって、また変化しました。
茜 チョコレートは他の仕事と違って、マニュアル通りで完成するのではないのが難しいところです。
恵美 チョコレートの作業でさらに絆が深まりました。搾油は一人でできますが、チョコレートは皆で協力しないとできません。茜さんが一番変わりましたね。チョコレートの責任者になって、最初は張り切り過ぎて空回りしていた部分もありましたが。
明子 責任感の表れだから。
茜 「自分が頑張らなきゃ」を人に頼んで分散できるようになりました。引き継ぎの大切さも分かりました。
恵美 お願いして分担できるようになったのが、大きな成長ですね。
春代 仲間への信頼があればこそ。
直子 チョコレート製造は、ノートを毎回見て、覚えるのに時間がかかりました。皆に見守ってもらいました。
恵美 直子さんが加わった頃は、チョコレート作りをスタートはしていましたが、まだ手探り状態で、一度覚えたこともやりながら工程が変わるので、大変だったと思います。
直子 今でも皆と工夫し、申し送りし、検討を重ねています。
春代 あの頃はチョコレート作りがこれほど難しいとは考えが及ばず、手順通りにすればできると思っていました。日々試行錯誤して、今の素晴らしいチョコレー
トになりました。スタッフ同士でぶつかることもありましたが、恵美さんが潤滑油となり、通訳となり、そこから良い雰囲気になりました。内部での調整能力を皆が持っている職場、皆が相手のこと、職場のことを考えて動ける職場です。
明子 問題が発生したらどう工夫するか話し合って掘り下げて、そのストイックさが商品になっていると思います。スタッフは何でも話せる信頼のおける人たち。公私共に素敵な財産にここで出会えました。
茜 私生活で辛い時も工房に救われました。仕事が心の安定に繋がっています。
直子 仕事に来て工房のスタッフと会うのが楽しみ。皆の顔を見ると安心します。
沙織 今週不幸があって休みをもらいましたが、優しい言葉をかけてもらい、日常の仕事で心が洗われ癒されました。
恵美 震災の経験を持つ私たちだから、大変さを分かっているから、というのもあるでしょう。
春代 安心できる場があるって凄い。分かり合えるから支え合える。信頼できる仲間がいて、最高。
スタッフが思う「ネパリ」とは
春代 皆にとって、ネパリらしさとは?
茜 大量生産しないこと。全部手作業で、工程も難しいけれど、ここまでやっているというのが自慢です。お客様にも伝わっていると思います。
明子 入ってからフェアトレードを知り、勉強しました。ぶれがない、嘘をつかない。自分らしく、やりたい方向性で進んでいい、間違っていないと思える灯台のような存在。
直子 一つ一つの商品の良さ、生産者の心が、お客様に伝わっています。
春代 お客様はきちんと受けとめて下さっています。お取引先の方も想いのある方ばかり。幸せなことです。
恵美 横浜のスタッフを見ていて驚くのはフットワークの軽さとネットワークの凄さ。ネパールに行ったと思ったら、利島に行き、野田村に行き、沖縄に行き。生産者を大切にしているのがひしひしと伝わってきます。
春代 生産者の思いをお客様に伝え、繋ぐのがネパリの役割。工房ができて、ネパリも生産者の一員になれました。物を作るのは大変ですが楽しい。手を抜いてごまかしても、食べたらすぐ分かります。カカオと黒糖で作った本物のチョコレート。非加熱で、化学的なものを入れない椿油。もとは障がいのある人の仕事として、誰でも参加できるように工程を増やし、機械化は最低限にしたら、世界一の油ができました。ピンタックブラウスも、ネパールの生産者の仕事をコンスタントに用意するための工夫です。生産者と、食べる人、着る人の安全をまず考えました。コストはかかりますが効率化できるところは工夫して乗り越えています。
沙織 恵美さんとも毎日相談し、皆のフォローをもらいながらチョコレートを頑張っていきたい。いまだに、緊張し、プレッシャーが半端ないけれど、失敗しても一緒に考えてくれます。
茜 自分が出来きれていないことにフォローを入れてもらい助かっています。
恵美 自分と茜さんが全体を見ながらバタバタ動いているのを、他の3人が支えてくれています。コロナ流行以降、人が集まることが少なくなったのが残念。ネパリに関係する人たちと知り合うのが自分たちにプラスになるので、そうした経験は大事にしたいです。
春代 学生さんやフェアトレードの草分け的存在であるお店の方たちが、工房を見学してスタッフのすばらしさに皆感動してくださいます。沖縄カカオプロジェクトのチョコレート作りに関わる人も増えてきました。
茜 広がる!嬉しい!仕事が新しく来るのも、大変ですが楽しい。バタフライピー、ローズティーも増え、ミニチョコレートを作るのも、大変ですが楽しいです。
恵美 一筋縄にいかないからこそ楽しいですよね。
震災直後の陸前高田の市街地の様子。
2023年9月の椿実収穫の時。全国の方のご支援で建てさせて頂いた工房は、私たちの宝物です!
自分の意見を臆せず言えるようになりました。
チョコレート製造についての伝え方も、工夫を重ねてきました。
学生さんがチョコレートの製造体験に来られました。説明にも熱が入ります。
商品を販売して下さっているお店の方たちが陸前高田まで足を運んで下さいました。
“うん米”の生産者、岩手県奥州市のアグリ笹森さんは、毎年椿畑の草刈りにいらして下さっています。子どもたちも交流を楽しみにしています!
工房スタッフのおすすめ商品
恵美 クーネ リップ&スキンバーム(保湿クリーム)
普段は目元のシワ対策として使用し、乾燥が気になる時は、顔全体に伸ばしてスペシャルケアをしています。椿油がたっぷり入っているからこその保湿力。ナイトパックすれば翌朝のお肌はプルプルもっちり。肌にスッとなじむので、朝使用しても化粧崩れが起きません。冷暖房の乾燥に負けないお肌になりました。香りも優しく、昨今のマスク生活ではさっと唇にのせて気分転換にしています。
茜 『LISAチョコレート シーソルト』
以前は苦手だった塩味と甘さの組合せの美味しさを新発見!口の中で溶かしながら粗塩が見つかったときの嬉しさと、口の中にカカオの甘さが広がる感覚がやみつきになりました。疲れが飛んで、1日がんばれそう!と思わせてくれる、そんなチョコレートです。冬は温めたミルクに溶かしてホットソルトチョコに!身体がポカポカ温まります!
直子 『LISAチョコレート カカオニブ』
カカオニブチョコレートは完成までとても繊細で、状態が常に変化するので緊張した作業が続きます。最後にチョコとカカオニブが上手く馴染んで仕上がります。ビターチョコレートにカカオニブのサクサクとした食感、噛む度に口の中に広がるカカオニブのホロ苦さが大好きです。ひとかけらずつカカオを味わって食べています。
沙織 『LISAチョコレート アソート5種 』
一度に色々な味が楽しめて、しかも美味しい!一つ一つは小さいですが、どれも深みのある濃厚な味わいがぎゅっと詰め込まれていて、とても食べ応えがあります。購入することで「沖縄・球美の里 福島の子ども保養プロジェクト」に100円の寄付が出来ます。自身も二児の母として、子どもの健康に無関心ではいられません。自ら製造に携わったチョコレートで福島の子供達の保養の一助になれる事も嬉しいポイントです。
明子 『生しぼり椿油』
椿のみちに勤務してから、私は手荒れ用ハンドクリームをつけたことがありません。毎日の作業で椿の実を触っているので、それだけで指先はしっとり。さらにツバキオイルを1滴手に垂らしてマッサージ
すれば、あかぎれやささくれなどありません。洗った後の髪にも、手のひらに3~4滴垂らして髪に塗ると、広がらずストンとまとまります。