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対談「パレスチナオリーブ」皆川万葉さん

2007年3月29日にパレスチナオリーブ代表の皆川万葉さんと対談を行い、2007年の秋カタログに掲載させて頂きました。それから17年が経ちましたが、この時に伺った話の本質は今も変わりません。イスラエル軍による激しい攻撃に日々曝されているパレスチナの人々。この現状に、私たち誰もが無関係ではありません。この社会を変えていくためにも、今、改めて皆さまに読んで頂けたらと思い、再掲いたします。(2024.2月 編集部)

フェアな社会に向けて

ビジネスを通して社会を変える

今回は、パレスチナ・オリーブ代表の皆川万葉さんとの対談をご紹介します。ネパリ・バザーロの直営店ベルダでは2001年11月からパレスチナ・オリーブの石けんを置いていましたが、2003年5月「おいものせなか(注1)」のイベントでの出会いをきっかけに意気投合し、2004年5月の世界フェアトレード・デイで、ネパリのセミナーにパネリストとして出席をお願いしました。一つの国にこだわり、現地の人々との深く密なつながりを大切に活動するもの同士、想いや悩みを語り合いました。

1.フェアトレードを始めたきっかけ

土屋春代(以下土屋):パレスチナと関わられたきっかけは?

皆川万葉(以下皆川):大学に入学した1993年、「パレスチナ暫定自治合意(オスロ合意)(注2)」が9月に結ばれ、「変だぞ」と思ったのがきっかけです。ホワイトハウスの前でアラファトPLO議長(当時)とラビン・イスラエル首相(当時)が握手し、前向きなニュースとして流れていました。「日本企業もこれでイスラエルに進出しやすくなる」という新聞記事が出て「何も解決していないのにこれでいいの?」とひっかかりました。

土屋:鋭いですね。あの時は、歓迎ムード一色でした。オスロ合意への感動秘話がストーリー化され、みんな「良かったね!」という感じでした。

皆川:高校生の時の湾岸戦争はものすごくショックでした。戦争はいけないもの、と習ってきたのに、正しい戦争だと言われるのが本当にショックで、そんな馬鹿な・・・と。大学で国際政治を専攻しましたが、1995年にスタディーツアーでパレスチナに行き、生活が初めて見えて、もっと人々の暮らしを知りたいと思いました。

土屋:何かおかしい、何かしなければ、という漠然とした問題意識を持っていたところに出会いがあった。そして、こんな大変なこととは知らずに始めてしまったのでしょう?

皆川:春代さんの言葉で、「不用意な一歩」というのが印象的でした(笑)。

土屋:私もおっちょこちょいで、最初よく考えずに始めちゃったから(笑)。

皆川:パレスチナとフェアトレードは別々に知っていて、最初はつながっていませんでした。大先輩の春代さんの存在はとても大きい。この活動に関わる前から、ネパリのセーターを着ていました。太陽柄セーターはお気に入りで、夫は学生の時から、今もずっと着ています。フェアトレードは入ってみると奥が深く、自分の生活とも関わることです。始めてしまったら、生半可な気持ちではやれないと気づき、2000年、自分はこれを主にしていこうと決意しました。

土屋:苦労している点は、品質基準ですか?

皆川:検品が大変です。石けん工場、「ガリラヤのシンディアナ(注3)」、日本でそれぞれ検品していると、外見で10%くらいははじかれます。また、ガリラヤの女性たちがラッピングをしているのですが、お客様から雑だとか、開けにくいなどの指摘があり、今は、テープの貼り方まで指示しています。日本人の要求に合わせすぎると、たくさん無駄が出てしまい、一方で環境にやさしくとも言われます。逆手にとったイメージ商品を開発する大企業と違い、小さなところではお客様の要望に合わせるのも限界があります。現地の状況は良くならず、フェアトレードが空しくなることがありますが、普通の人は元気がなくなってきてもフェアトレードに関わる人はみんな元気です。

土屋:ネパールも政情不安ですが、フェアトレードでつながる人はみんな元気で頑張っています。

皆川:パレスチナの人々も、もう耐えられない、少しでも息抜きしたい、という状況です。失業率は60%とも言われます。海外で出稼ぎをして送金したり。パレスチナの物価は高いので、海外でもいい仕事をしないと意味がなく、帰ってきても仕事がありません。パレスチナには潜在力はあるのですが。かといって、イスラエル人が皆良い生活をしているわけではありません。イスラエルは格差社会。軍事費は上がり、福祉はマイナス。男女共に徴兵制度があり、ドメスティックバイオレンスやドラッグなども問題になっています。マイノリティー差別など日本と似ている点もたくさんあります。

土屋:フェアトレード団体が日本にいくつかある中で、パレスチナ・オリーブさんは現地密着型。そういうところがいくつもあるとうれしい。生産者との距離感が違いますね。

皆川:たくさん買えば、それでみんなが幸せになるというわけではありません。
生産者たちのエンパワメントにつながらないと。生産者との密な結びつきがなければ、現地での意味が見えてこない。

土屋:フェアトレードは貧困問題で苦しむ国の経済状況改善といっていますが、パレスチナの場合はそれとは違いますね。

皆川:パレスチナでは、貧困は、他の国に比べてそれほどひどくはありませんでした。公正とか、人権とか、そういう問題です。でも2000年以降、特に、ハマス政権発足後のこの一年はとても悪くなっています。各国からの援助がストップし、全体の生活水準が下がっています。今の状況を変えるには、イスラエルの国、社会が変わらなければ、パレスチナとは対等な関係になれません。パレスチナ国家ができたとしても、それだけでは問題は解決しないのです。やはり自分たち自身をエンパワメントして、さらに社会を変えていくことが必要、という考え方が生産者団体にもあります。

土屋:フェアトレードは単なる貧困の緩和だと思っていたら、問題は解決しないし、社会は変わりません。私たちの生き方を変えずに、環境を大事にしよう、貧しい人から物を買おうだけでは解決しない問題ですね。

2.パレスチナの状況

土屋:今、商品が届かなくて、大変ですね。ハラハラしますよね。近々届きそうですか?

皆川:待てばいつかは・・・。石けんを作っているナーブルスからシンディアナに運ぶ間に、イスラエルが分離壁を作り、大小さまざまな検問所もあるので常に一苦労です。許可証があって、検問所が開いていても、何時間も待たされ、通れないことがあります。説明もまったくありません。数週間、数ヶ月、通過のタイミングを見計らいます。また、2006年7月のイスラエルのレバノン侵攻時は数週間港が閉まったままでした。今回は、イスラエルの港湾労働者のストライキの通告があって、船が入らず港で遅れました。農家からのオリーブオイルの運び入れも遅れ、複数の要因があって、予定より2ヶ月くらい入荷が遅れました。

土屋:ビジネスにとって、それは厳しい状況ですね。

皆川:需要は増えているのに品薄になって3ヶ月経ち、ビジネスとしてやっていくためにスタッフを増やしたり、広い倉庫を借りて維持費を払ったり、自分たちの生活も支えたりするにはまだまだ厳しいと実感しました。そして、現地密着でやっていく上での大きな問題は、どんどんイスラエルに入国しにくくなっていることです。一度入国拒否されたら5年間入国できなくなると言われているので、いま様子を見ています。ガザ地区はまったく入れません。一部のNGOで登録された人や事前にイスラエル大使館からの推薦状をもらってプレスカードを取得したジャーナリストだけ。逆に大手メディアは入れます。

土屋:過激なことを言わないと思われているからでしょうか。都合が悪いことを外に漏らされないようにすごく警戒しているのですね。

皆川:パレスチナ自治区の中の検問所もイスラエル軍が管理しているので、通れる人、通れる時間などまちまちです。パレスチナは爆撃がないと注目されませんが、人々にとっては日々の検問で、人と物の移動が制限されているのが一番大変です。出入国の際は、質問されなければ、パレスチナ自治区に行くなど余分なことは言いません。活動家と思われると拒否されますし、自分のことは何を聞かれてもいいのですが、パレスチナ人の友人のことを聞かれると困りますから。シンディアナは団体でユダヤ人スタッフもいるので連絡先を出すのはOKなのですが、個人的な友だちは、何かあったら守れないので、名前や場所は出せません。ただ、状況が厳しいと言っても、餓死者が出ているわけではありません。栄養が偏ってきたとは言われていますが。

土屋:人間、飢えずに、何とか生きていればよいというものではないでしょう。選択肢がない、自己決定できないというのは何より辛いのではないでしょうか。本当に大変な状況ですね・・・。そのような人権侵害に国連は何もできないのでしょうか。

皆川:難民の帰還を求める国連総会決議に違反しているし、占領地から撤退すべきという安保理決議にも違反していますが、イスラエルには制裁がありません。アムネスティが、3月にしっかりとした要請を出しているのですが・・・。

3.現状とフェアトレード

土屋:そういう状況を、フェアトレードは伝えていく、という重要な役割がありますよね。生産者のことを伝えることがとても大切なのですが、商品を買おうとされている方に、どこまで深刻さを伝えて良いのかと悩みます。あまり暗いことやマイナス部分をお伝えしたら、お買い物の楽しい気分に水を差すのではと。カタログには、表面的なことしか書けなくなるのではないか、そうなると、ネパールのもっと深い部分、政治や内戦状態の悲惨さなどをどこに書いたらいいのかと悩んだ時期もありました。今は、カタログにもできるだけ深い内容を、と考えています。読んで欲しいと思って形にしたものは、きっと訴える力が強いと思います。もっと伝えたい、という気持ちはどうされていますか?

皆川: 複雑な側面があるので、あまり一遍に話すと、混乱してしまうかな、と。またフェアトレードとパレスチナの生活のどっちかに重点を置かないと話すのは難しい。パレスチナの問題は、政治なしに語るのは無理。生産者団体自身も、海外で話す時に、どこまで話せばいいのか、相手がどこまで求めているのかが難しいと言っています。政治の話はしないでくれ、と言われることもあるそうです。私も以前東京で、パレスチナの話からアメリカ、そして日本、自分たちも考えていかなければならないと話したら「あんなことまで言わなくてもいいのに」と言われたことがありました。

土屋:今の状況を作り出したのは国際政治。それを政治抜きには語れないですよね。ネパールも内戦は終わったと思われていますが、まだ各地で争いが起きています。根本的に解決してはいないので、これからも続きます。アメリカもインドも関わっています。それらを抜きにしては、ネパールの今後も予想できません。アメリカ、それに連なる日本、世界のパワーゲームの中で起きていることなのです。

皆川:そこを変えていかなければ、対症療法ではおさまりません。「援助ではなく貿易を」とは、そういうことなのではないでしょうか。イスラエルがどんどん爆撃をしてインフラが破壊され、流通が阻害されているから製品が外に出せず、経済が壊滅的になっています。

土屋:日本はアメリカべったりのイスラエル寄りなので、情報が入ってきません。見ようとしないのです。分離壁なんて、今の時代にこんなことが堂々と行なわれていること自体、信じられないことです。分離壁とは、イスラエルがパレスチナに作った、人が簡単に越えられないほど高い壁です。ゲートはありますがほとんど開いていません。それまで自分の家の前の畑だったところにも容赦なく壁を作られ隔てられ、自分の畑に行くにも、ゲートを通っていかなければなりません。

皆川:国際司法裁判所でもはっきり違法だと言われているのに、そのままです。
アメリカの軍事援助がなければ、イスラエルも作れません。

土屋:皆川さんをお呼びした2004年のセミナーでは「愛の反対は憎しみではない。無関心」というマザーテレサの言葉をよりどころに、無関心が、暴力を見過ごし、多くの人を死に追いやっている、そのメッセージを伝えたかったのです。

皆川:パレスチナも、アフリカとかチェチェンよりは報道されていると思います。でも、パレスチナの報道は一面的です。

土屋:宗教的な対立のイメージが大きい。そのように思われているうちは解決しません。何千年の問題だから、一朝一夕に解決できないと思われています。テレビで評論家も平気でそう言っています。

皆川:特殊な問題ではありません。植民地主義、グローバリゼーションの問題、そしてアメリカ、日本の問題とつながっています。フェアトレードで戦争は止まりますか?と言われても直接的には止まらないけど・・・直接的に変わることがあるとしたら、アメリカの軍事支援がなくなることでしょう。

 

4.わたしたちが目指す方向

土屋:今、フェアトレードも規模の大きいところにシフトしていこうとしています。その流れの中に、マークの問題があります。FLO(注4)が、ネスレやマクドナルドの商品の一部にフェアトレードのラベルを許可しました。何か違うのでは?と思います。大手のスーパー、コンビニにも置くようになっていますが、そういうところに入れるのは大規模な生産者だけです。そういうことがフェアトレードの進歩ではないと思います。

皆川:春代さんの「地域に密着する小さな団体が増えればいいのに」という言葉が印象的です。エコ商品を買えるのは、昔は小さいお店だけでしたが、今は大型店でも買えます。確かにいろんな人の目に触れるようになって便利だけど、今まで想いを支えにやってきた小さなお店はどうなっちゃうの?と思います。

土屋:みんなが関心のない時から頑張ってきて、ようやく人々の中に意識が芽生えてきた時に、大きなところの営利主義に持っていかれてしまう。大企業の意識が本当に変わったのならもちろんうれしいのですが。そうではなくていいとこ取りという感じがします。ラベルの存在が大きくなって、ラベルがないとフェアトレード商品ではないという動きになるのが恐いですね。

皆川:デパートには、すごく価格の高いオリーブオイルがあるかと思えば、スーパーには、なぜバージンオイルがこの値段で?と思う安いものもあります。多分シーズンや産地が違うものを混ぜているのだと思います。何と比べるかで、私たちのオイルを、高いという人もいれば、安いという人もいます。

土屋:適正な利益を取れないほど値段を下げては、継続していけません。継続することが生産者にとって何よりの支えです。私たちの服も反応はそれぞれですが、高いという人は、中国などの大きな工場で大量に生産された商品と比べています。天然素材、手織り、手染めと比べたら、格段に安いのです。「値段」と「値打ち」は違うと思います。「値打ち」を知っている人は、安いと思います。私たちのお客様も、みなさんお金持ちだから買ってくださる、とういわけではありません。

皆川:それでも普通の人の手に届く値段ですよね。どんな方でも買ってくださったらうれしいけれど「生活を見直すことで、社会を変えよう」としている人たちとつながりたいと思っています。海外での低賃金労働者と競争になり、日本の労働者の環境も悪化しています。それも安く物を作るため。価格って何?と思う。海外の現地とのつながりから始めましたが、気がついたら日本各地とのつながりができました。それは、財産です。これからも一緒に勉強会など、できたらいいですね。

土屋:今回お話して、私も初めて知ったことがたくさんありました。やはり、聞かないと分かりません。現地と直接関わっている人の知識や話は違います。あれも、これもと浅く広くは無理です。私たちも、ネパールに限定しているからこそ、いろんな素材、技術をまとめ、コーディネートすることができます。ひとつの国と長く深く付き合っている利点です。これからも、その方針を貫いていこうと思います。そういう団体が協働して、つながっていきましょう。

皆川万葉 パレスチナ・オリーブ代表
現地を継続的に訪問・交流しながら、1998年から仙台で数人のスタッフと活動。主に「ガリラヤのシンディアナ」からフェアトレードでオリーブオイルやオリーブ石けんを輸入・販売。生産者の背景やパレスチナの状況を伝えるため通信『ぜいとぅーん』を発行。パレスチナ・オリーブに関する詳しい情報はこちら。

パレスチナのこだわりオリーブオイルやオリーブ石けん、クッキー、刺繍製品などを販売されています。パレスチナの現地情報も発信されています。HPFBなど、ぜひご覧ください。

土屋春代 ネパリ・バザーロ代表
中学時代に知ったネパールの子どもたちの厳しい状況と、その20数年後に聞いた状況が殆ど変わっていないことに強い衝撃を受け、教育支援活動を始めた。しかし横たわる深刻な貧困問題に直面し、仕事の機会創出のため1992年ネパリ・バザーロを設立した。

(注1)おいものせなか:岩手県花巻市で1993年から営業するフェアトレードショップ。HPはこちらから。

(注2)パレスチナ暫定自治合意(オスロ合意):1993年9月、イスラエルがはじめてパレスチナ解放機構(PLO)をパレスチナの代表と認め、自治に向けて交渉を開始することを決めた。

(注3)ガリラヤのシンディアナ:人口の半数がパレスチナ人であるイスラエルのガリラヤ地方を中心にオリーブオイル等を生産するほか、輸出が難しいパレスチナ自治区で作られているオリーブ石鹸を海外に紹介、販売するなど他の生産者団体と協力。

(注4)FLOインターナショナル(Fair Trade Label Organization
International):1997年に設立された組織で、フェアトレード生産者の認定と一般企業がフェアトレードラベルを利用する際の認定を行いながら、ラベルを通じてフェアトレードの推進を目指す運動。営利追求企業のイメージアップのみに利用されないかという危惧もある。フェアトレードのラベルはこの他に、国際フェアトレード連盟(IFAT)がその登録メンバーに向けて認証しているFTO(Fair Trade Organization)マークがある。