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梶原さんのお椀とぐい吞み tsuna36 2025sm

奥能登から その後

輪島塗を次世代へ

梶原さんのお椀とぐい呑み

文・土屋春代


大事な仕事道具、カラスとトンビの羽根を見せて頂きました。カラスの羽が一番良いそうです。

輪島塗は工程が124もあると、輪島塗会館の資料展示室で展示に関わった塗師屋の梶原泰庸さんに工程毎の丁寧な説明を伺い「大変な手間と時間がかかっている」と理解したつもりでいても、知れば知るほど凄さに圧倒され、伝える力がないことに悩みました。現場を見たい。ほんの一端でも実際の仕事を見たい、垣間見るだけでも違うと梶原さんに無理にお願いをして、塗りの仕上げ工程「上塗」と製品としての最後の工程「呂色仕上げ」を見せていただくことができました。

目にしたのは何度も何度も作業を繰り返す地味で根気のいる仕事でした。ミスの許されない完全を目指す強い緊張に満ちた仕事です。これだけの繊細で気が遠くなるような工程を経て出来上がった製品にいったいいくらの値をつけたら適正価格と言えるのだろう。何人もの職人が心を込めて手間を惜しまず技を尽くした「工芸品」を普段使いにするとは、何という贅沢でしょう。しかし、震災前から売上が減り伝統の継続を危ぶむ声もあった輪島塗が震災でさらに危機が深まった今、継承に一役買うことができるのならば嬉しいことです。そして、輪島塗が生活を慈しみ丁寧に暮らす日々につながるのではないかと思います。

上塗師(うわぬりし)・中田文夫さん
上塗という仕上げの塗りを専門にされる中田文夫さんの工房に伺いました。漆塗だけでも下地塗、中塗、上塗の段階を100以上の手数をかけます。どの工程でもそうですが、特に仕上げとなると微細な塵や埃もつけないように細心の注意を払うため、職人以外は家族でも部屋に入れません。部外者が入っていいのか気が引けましたが自分が仕事を見て実感しなければ伝えられないと思い切って入れていただきました。丁寧に掃除をし拭き上げた部屋で最初は離れてそぉーと見ていましたが、だんだん近づいてしまいました。

刷毛の種類とサイズの多さ、しかもどれも高額なことに驚き、これだけ揃えるのは大変だと先ず思いました。どんなに気をつけてもついてしまうこともある細かい異物を取り除く道具はカラスの風切羽の羽柄の先端です。中田さんは海岸や河原などを散歩される時、カラスの羽根が落ちていないかと気にされるそうです。

塗っては乾かし、塗っては乾かしを繰り返しますが、乾かすために部屋の中に塗師風呂と呼ぶ小型の納戸のようなものがあります。その中の棚に塗った器を置き、漆が垂れないように棚を静かにゆっくり回転させます。

呂色師(ろいろし)・園一郎さん
呂色師の園一郎さんの工房に伺いました。呂色師は輪島塗の製品の最後の工程を担います。上塗で乾いた状態で完成品として、その光沢を楽しむ「塗立」が一般的ですが、さらに、鏡面のように平らで、豊かな光沢のある仕上げにする技法が呂色です。見事な艶と美しさを放つ呂色仕上げは最高峰の仕上げとも言われています。表面を柔らかい炭で研ぎ、呂色漆を塗り、素手で摺って艶を出す作業を何度も繰り返します。器の状態によって磨き方や回数を変えるそうです。一般仕上げの器と呂色仕上げの器を並べて見ました。呂色仕上げの光沢はただ光り輝くだけでなく、温か味を感じるしっとりとした艶と光沢がありました。手の温もりが伝わるのですね。沈金の加飾を施した「ぐい呑み」は上塗の後、呂色磨きをし、沈金を施し、また呂色仕上をするので、より手間がかかっています。園さんの手を見せていただきました。素手が道具なので、夜は手袋をして寝られるそうです。


手で磨くほどに、温もりのある美しい光沢が増します。

塗師屋(ぬしや)・梶原泰庸さん
使い手の希望を聞き、それに相応しい職人に仕事を依頼し、木地職人から下地職人、各段階の塗師、加飾師、呂色師との間を何度も行き来する梶原さん。一つの製品を作り上げ使う人のところに届けるまでの長い期間、全工程の責任を負います。今回のように地震と豪雨という二重災害で自身も被災者でありながら懸命に尽くす姿に心を打たれました。梶原さんは昔からの技法を残したいと最近では省かれることもある仕事も組み入れます。輪島で伝統を守る人々を想いつつ、大事に使いたいものです。

11月、青森県立柏木農業高校から能登半島地震の伝統工芸分野の復興を支援したいと相談があり梶原さんに繋ぎました。生徒が企画したオリジナル玩具の売上からです。2月末、青森のかつてない豪雪を案じた梶原さんから輪島塗で校章を作って贈りたいと相談があり学校に伝えました。創立百年でよい記念になると大変喜ばれました。このような交流が生まれたことが嬉しく律儀な梶原さんらしいと感動し、昔から言われている言葉を思い出しました。「能登はやさしや土までも」。

輪島塗 ぐい呑み
輪島塗の美しさのひとつ、沈金の加飾が施されたぐい呑み。沈金とは、塗面を彫ってできたくぼみに漆をすり込み、そこへ金・銀の箔や粉を埋めて模様を描く技法。彫る溝の深さや角度によって立体的に表現することも可能です。お酒を注ぐことで立体感が増します。

お客様から嬉しいお声を頂きました。
お待ちかねのぐい吞みが届きました。開けて取り出したところあまりの美しさにびっくりしました。金線で描かれた繊細な模様にも感動!!この素晴らしい伝統工芸、是非続けていって欲しいです。今まで自分が見ていた塗り物とは違っていました。これからも頑張ってください。(神奈川県 C・I様)

輪島塗 お椀
美しさと丈夫さ、実用性を兼ね備えた輪島塗は、ごはんやお汁など、毎日の食事で使うお椀に最適です。驚くほどに軽量で子どもからご高齢の方まで使いやすく、滑らかな手触りや、やさしい口当たりは、自然素材で作られた輪島塗だからこそ。使い込むうちに光沢感も増していきます。