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ネパールコーヒー物語その6 tsuna37 2025a

地域開発 人が人らしく生きるために

フェアトレード その先の未来へ

文・丑久保完二(ネパリ・バザーロ副会長)


道なき道を、コーヒー豆を背負って運ぶシリンゲ村のユブラジさんとお姉さん。

ネパールコーヒーの市場の広がりと地方政府の動き
ネパリ・バザーロがネパールコーヒーの輸入を開始した1994年は市場が全くなく、農民は悲観してせっかく育ったコーヒーの木を切り倒していました。その後の内戦の10年間(1996年から2006年)も、ほぼ私たちだけがバイヤーという時代でした。極貧に苦しむ西ネパールは東ネパールの紅茶のような現金収入につながる産業が乏しく、コーヒーを西ネパールの収入向上の柱にしたいとのネパール政府の考えもあり、ネパール首相が私たちに会いたいと何度もアプローチしてきた時もありました。超高級ホテルではコーヒーと言えばイタリアのコーヒーで、ネパールにコーヒーの木があると知る人はほとんどおらず、少し格下のホテルでもネスレのインスタントコーヒーという時代。しかし、今や国内ではカフェが若者に人気で、煎りたてのコーヒーを飲むようになり、国内のコーヒー需要が高まると共に、輸出を試みる人々も増えました。
ネパールコーヒーは主にフェアトレード組織を通じて、ドイツ、スイス、アメリカ、日本などに安定した価格で輸出され、国内市場も拡大していますが、小規模農家が多く、生産量が限られ供給が追いつかなくなっています。その動きに呼応して、地方政府もコーヒー栽培の促進のため、コーヒー生産者に苗の栽培を促し、その苗を市場価格で買い上げ農家に2割負担で配布するなど、側面からの支援が一部の地域(パタン南部)で始まっています。意識の高い地域では、コーヒーだけでなく農産物の多くを有機栽培にする新しい試みも出てきています。
シリンゲ村はパタン南部に属し、故バドリさんの息子、ケダールさんが5000本の苗を育て、村の若者、ラジクマールさんはシリンゲ協同組合の代表を務める傍ら、地方政府の苗配布の活動をサポートしています。農民(コーヒー生産者)にとって、安く苗を購入できるとても良い機会となることでしょう。この動きはまだ一部で、西ネパールのグルミでは自助努力で苗を配布しているに過ぎず、増産とまではいかないのが現状のようです。

止まらない若者の国外流失と新たな希望
ネパール社会では、ようやく、コーヒーなど国内市場が出来てきたのですが、国外に出る若者が増えています。特に、高校卒業の男子に至っては、その半分、女子もけっして少なくなく、農村部では年寄りと子どもだけになるなど、大きな社会問題になっています。又、中東などに出稼ぎに行き、体を壊して帰国という話もよく聞きます。大きな原因の一つに国内に仕事がないことが挙げられます。一歩一歩、着実に仕事の機会を創造する以外に手立てはありませんが、少なくとも、コーヒーがその担い手の一つに育ってきたことは、私たちにとってとても嬉しいことです。
コーヒーの市場が見つからない頃から長年、シリンゲ村とその周辺のコーヒー栽培を支えてこられた長老のバドリさんが2023年春にこの世を去り、シリンゲ協同組合も新しい局面に入りました。ラジクマールさんは私たちの奨学金で高等専門学校に進み、有機農業の専門家として忙しい日々を送っています。養護施設で幼い頃にレスキューされたアシャさん、シムランさんも看護師として病院に勤めています。出稼ぎの流れは止められなくても、少なくとも、選択肢のある社会であって欲しいですね。

フェアトレードから卒業間近のネパールコーヒー
ネパールコーヒーは、とても高価になりました。市場がまだない頃、コーヒーはとても安い値段で売り買いされ、農民にとっては厳しい時代でした。私たちが輸入を始めたことにより、生産量が元々少ないコーヒーは、当時からすると高値で取り引きされ、新聞記事にもなったほどです。その次に起きた現象は、コーヒーは有機栽培。まだ、オーガニックという言葉を知る人はほぼいない時代に、これがコーヒー栽培の常識になりました。その次は、東ネパールは紅茶栽培、西ネパールはコーヒー栽培を柱にする政府の農業政策です。内戦を終えた頃から市場に出す人も増え、コーヒーの価格は、物価上昇と共に毎年値上がりをしてきました。それは今も続き、農民(生産者)の収入に寄与しています。特に、昨今の世界的規模のコーヒー不足で、今年はなお一層値上がりをしています。
日本をみると、この30年間、所得は増えず、ロシアのウクライナ侵略を機に、エネルギー関連の値上げから国内物価も上昇。コーヒーも高くなり、贅沢品になりつつあります。ネパールも物価上昇が激しいので、コーヒー生産者からみれば決して豊かになったわけではありませんが、そろそろフェアトレードの使命は終わる段階に来たことは間違いなさそうです。
私たちがお付き合いしている方々は、経済的に厳しい人々、生産者が多いので、これからも、できる範囲で支え合い、次世代の若者と共に歩みを進めたいと思います。


栽培されているコーヒー苗の様子。


コーヒーの有機監査の様子。緊張の一コマですが、興味津々の村の子どもたちが集まっています。(下写真)


コーヒー豆の選別をする女性たち。


シリンゲ協同組合のメンバーやご家族の方々と。前列左が丑久保完二、中央がバドリさん。